よく革靴のお手入れについて、「最後に防水スプレーをかければ雨の日も安心です。」なんて書かれていますよね。
本当にそうでしょうか?
Gennojiです。
今回は靴屋の私が革靴のお手入れに防水スプレーを使わないワケについてお話しします。
こんなことを言ったら、「靴屋は防水スプレーを勧めるじゃないか」なんて言われそうなので一応断っておくと、あくまで私個人の話です。
少し本音を言わせてください。
時々、雨に濡らすのが心配だとおっしゃるお客さんに対して、「防水スプレーをかけていただければ大丈夫ですよ!」なんて言っている店員を見かけます。
何をもって大丈夫と言っているのでしょうか?
お客さんはそれで心配が解消し靴を買ってくれるのかもしれません。(防水スプレーとセットで客単価も上がる。)
しかし、そのような誤解を招く販売を続けていても信頼を損なうだけです。
「結局、革靴は水に弱いよね」となり、革靴を履かなくなる人だっているかもしれません。
(もちろん、すべての店員がそうだと言うわけではなく、親身になってアドバイスしてくれる素晴らしい店員さんもいます。)
今回お話ししたいのは、どうも多くの人が防水スプレーに期待し過ぎているんじゃないの?ということです。
【革靴のお手入れ】シューケア用品よく使うもの・あまり使わないもの
こちらの記事にも書きましたが、私は10年以上ほぼ毎日革靴を履いていますが、自分の靴(紳士靴)に防水スプレーをかける習慣はありません。
防水スプレーは不要だとか、防水スプレーは革に悪いとか、そういうことを言いたいわけではありません。(後述しますが、防水スプレーが活躍する場面もあります。)
ただ単に、毎日革靴を履いていても防水スプレーが必要だと感じないから使わないだけです。
なぜ防水スプレーを必要と感じないのか、その理由をお話しします。
そもそも防水スプレーはなぜ使う?
そもそも防水スプレーを使う理由って何でしょう?
「雨から靴を守るため」という人が大半ではないでしょうか。
「ホコリが付きにくくなるから」という人もいるかもしれません。
防水スプレーをかければ撥水効果が上がるのは間違いありません。
しかし重要なのは、それで目的が果たされるのかどうかです。
つまり「雨の日も革靴を快適に履きたい」という目的だとすれば、それが達成された時に初めて役に立ったと言えるのです。
「強力撥水」だとか、「革に優しい」というのは売り文句に過ぎません。
実際の場面で考えてみます。
雨から靴を守りたい・雨の日も快適に履きたい
例えば、ブラウンのスムースレザー(銀付き革)の靴を雨の日に履きたいとして、防水スプレーをかければそれで大丈夫でしょうか?
最初のうちは雨を弾いてくれるかもしれませんが、10分も雨に当たっていれば撥水効果も落ちて雨ジミになるかもしれません。
靴はコバの隙間からが一番浸水しやすいですし、レザーソールなんて履いた時には底面からも雨を吸い上げてしまいます。
何が言いたいかというと、防水スプレーを使ってもその程度という事です。
何でもかんでも「防水スプレーをかければ大丈夫」というのは期待しすぎでしょう。
雨の日も革靴を履きたいのなら、そもそも雨に強い革靴を履いた方がずっと快適です。
私の場合、少しでも雨が降りそうならラバーソールを、雨が降っているなら雨に強い靴(スエード靴など)を選ぶようにしています。
もし予想出来ない突然の雨に見舞われたのなら(年に数回もないですが)、その時にはアフターメンテナンスに気を配るようにします。
このように心掛けていると、防水スプレーが必要と感じることはなくなりました。
ホコリや汚れを付きにくくしたい
防水スプレーの役割でホコリや汚れを付きにくくするということがあります。
日頃からホコリまみれになる環境の方とっては効果があるかもしれませんが、普通に街中で履く程度ならブラッシングで充分じゃないでしょうか?
ダイエットに例えるなら、ダイエット効果のあるサプリに頼るより、実際に運動したり摂生する方が効果があることと同じです。
これまでも繰り返し言ってきたように、革靴は日頃のブラッシングがとても大切です。
ブラッシングだけきちんとやっておけば、お手入れは9割済んだようなものです。
これから革靴のお手入れを始めたいと思っている人に知って欲しいこと
ここまで、防水スプレーを必要と感じない理由について書きましたが、防水スプレーが活躍する場面にも少し触れておきます。
防水スプレーが活躍する場面
私は防水スプレーを全く不要だと言っているわけではありません。頻度は少ないですが、防水スプレーを使う場面もあります。
例えばスエードの靴。
革靴を熟知してらっしゃる方は昔から雨の日にスエード靴を履くことが多いです。
スエードの起毛が水滴を支えるようにして水をはじきやすい構造になっており、フッ素系の防水スプレーとの相性も良いのです。
シーズン始めに一度くらい防水スプレーをかけておけば、雨用靴として十分な性能を発揮します。
あとは、お酒がお好きな方。
「飲み過ぎてよく靴にワイン溢しちゃうんだよね。」なんて方は、防水スプレーを使ってみるのも良いと思います。
お酒を一瞬溢したくらいなら、防水スプレーの撥水性で事なきを得られるかもしれません。(精神的な安心感が大きい。)
私が防水スプレーを使うことがあるとすれば、スエード靴と傘、キャンバス生地のバッグくらいでしょうか。
最後に
今回は靴屋の私が革靴のお手入れに防水スプレーを使わないワケについてお話ししました。
下駄箱に使ってない防水スプレーを何本も放置してる人いませんか?
勧められたから買ったけど、面倒だからあまり使ってないという人もいるんじゃないでしょうか。
どんな道具も使い方次第。目的を持って使うことが大切です。
靴の扱い方が知識として備われば、様々な情報に踊らされることもありません。
余談ですが、防水スプレーの吸引事故にはくれぐれも注意してくださいね。
防水スプレーが肺に入るとかなり有害で呼吸困難を引き起こす恐れがあります。
閉ざされた玄関なんかで数足まとめて防水スプレーをかけているうちに吸引しているケースもあります。
防水スプレーを使用する時は必ず屋外で使うようにしましょう。