ここ数年のローファー人気はとどまることを知りません。
ファッショニスタたちは一様にローファーをお洒落に履きこなし、ファッション誌でも「ローファー特集」をよく見かけます。
最近は革靴と聞けばローファーをイメージする人も多いかもしれない。
そんな中、靴屋にはあるジレンマがあります。
Gennojiです。
先日、お客さんからこんな話を聞きました。
「ローファーが欲しいんですけど、ある靴屋さんに行ったらお客様の足にはローファーは合いませんと言われちゃって、、」
このお客さんとの会話で色々なことを考えさせられました。
今回は、「お客様の足にはローファーは合いません」では何も解決しないということについてお話しします。
「お客様の足にはローファーは合いません」の真意
ローファーは合わないと提案した店員さんは不親切だったのか?
決してそんなことはありません。
むしろ誠実に足に向き合っており、靴の知識と経験を持った優れた店員さんだと思います。
お客さんのことを想ってそのように言える店員さんはけっして多くはないので、信頼出来る方でしょう。
・ローファーはフィッティングの難易度が高い
おそらく、この方の足は甲が薄くかかとが小ぶりな最近若い人に多いタイプの足だと思います。
ローファーは履き口が広いので足との接地面が少なく、フィットさせるには甲周りとかかとでしっかり抑える必要があります。
しかし、甲が薄い人やかかとが小ぶりの人は抑えがうまく効かず、靴の中で足が遊んでローファーを快適に履けないケースが多いのです。
サイズを落としてなんとか履くことも出来なくはないですが、ある程度の経験値がある人でないとその判断は難しいでしょう。
今回の店員さんの心の声を代弁すれば、
「万策尽きました。大変残念なことに私たちにはお客様にご満足していただけるローファーを用意することが出来ません。おそらく他のブランドでも似たようなものでしょう。どうかローファーは諦めてください。」
という感じだと思います。
つまり、靴のフィッティングという点においては的確なアドバイスなのですが、お客さんのローファーを履きたいという気持ちに対して解決策がないことになります。
・ぽってりとしたシルエットの靴も同じ
ローファーと同じような例は他にもあります。
ここ数年の革靴のトレンドとして、ショートノーズで丸みのある「ぽってりとしたシルエットの靴」があります。
こうした靴はつま先の雰囲気に合わせて甲周りもゆとりをもたせている場合が多いので、甲が薄い人には合わせにくいです。
履きたい靴でなければ革靴を履く必要はない
今回の方のように「ローファーを履きたい」という人にとっては、ヒモ靴にしませんか?という提案は響かないでしょう。
なぜなら、お客さんはローファーが履きたいのであって、革靴が必要なわけではないんです。
こちらの記事にも書きましたが、これからの時代はビジネスシーンの服装カジュアル化がより進むと考えられます。
履きたい革靴がなければ、スニーカーで良いのです。
せっかくローファー(革靴)を履きたいと思った方に解決策がないままでは業界は廃れてしまうでしょう。
解決策はあるのか?
今後この課題に対して、考えるべきことが2つあると思います。
・足が薄い(細い)人向けの靴の開発
こちらの記事で詳しく書いたとおり、現状の靴売り場には足が薄い(細い)人に合う靴があまりに少な過ぎます。
大多数に合えば良いという従来の考え方のままでは、革靴離れはますます進んでいくでしょう。
メーカーはこの対応をもっと早めるべきです。
・トレンドと現代の足形とのミスマッチを埋める
「ローファーが流行っているから」
「ぽってりしたシルエットが流行っているから」
という発想だけで商品展開を決めていては、トレンドと現代の足形とのミスマッチは広がる一方です。
「まず足があり靴がある」という考え方を作り手は忘れてはいけません。
例えば、ローファーのニーズがリラックス感と上品な雰囲気にあるとすれば、甲を調整出来る(デッキシューズやモンクベルトのような)靴で同じようなニーズを満たせないか?
甲が薄くても履けるぽってりしたシルエットの靴は出来ないか?
というように足ありきの視点で考え、新しい提案をしていくことは出来るのではないでしょうか。
最後に
今回は、「お客様の足にはローファーは合いません」では何も解決しないということについて考えてみました。
足のことを第一に考え足に合わない靴はすすめないというのは靴の販売員として正しい姿勢です。
しかしその一方で、靴売り場には足よりもトレンドが重視された商品が多く並ぶという矛盾が存在します。
合わない靴を履き続けることで、知らず知らずのうちに健康を害している若い方もいるでしょう。
メーカーを動かせるのは消費者です。
少しでも多くの方が、このような問題に対して考えるきっかけになればと願っています。