新型コロナウイルスの流行が社会全体に与えた影響の大きさは計り知れません。
そして、私たちの生活や行動様式にも変化を引き起こすきっかけになる出来事だと思います。
外出自粛やリモートワークを経験し、社会全体で「無駄はなるべく省く」ということに取り組んだ結果がより良い社会づくりに役立つ部分もあるでしょう。
その一方で、私のいる靴業界においては大きな変化を余儀なくされる状況になるのではないかと考えています。
Gennojiです。
今回は、アフターコロナの革靴の在り方について考えてみたいと思います。
私の考えを最初に言ってしまうと、アフターコロナでは「革靴」に対する世間のニーズが大きく変化するのではないかと思います。
それは決して小さな変化では済まされないだろうと感じています。
なぜなら、大きな自然災害が行動様式に変化を起こし、靴を取りまく状況が変わったのは今回が初めてではないからです。
3.11後にもそういった変化はありました。
東日本大震災後の靴のニーズの変化
大震災が発生した2011年3月11日、首都圏の交通機関は大混乱し都内では約300万人以上が帰宅困難になったと言われ、何時間もかけ徒歩で帰宅した人も多くいました。
その後に起きたスニーカーブームは震災の経験が大きな契機になったと言われています。
震災前からランニングブームなどで、スニーカー人気は徐々に高まっていましたが、3.11以降は機能性や実用性といったニーズの高まりとともにスニーカー需要が急激に高まりました。
職場における服装の自由化が進んだことも大きな要因でしょう。「スーツ離れ」や「革靴離れ」という言葉も聞かれるようになりました。
そこにやってきた今回のコロナウイルスです。
全世界の人々が、実際に行動を抑制されたり困難に直面するという経験をしました。
今後起こりうる行動様式の変化は、震災時よりも大きなものになるのではないでしょうか?
コロナ収束後もリモートワーク化は広がり、服装の自由化が更に進むと予想出来ます。
そうなると、革靴はどうなるでしょうか?
「ビジネスシューズ」という言葉は無くなってしまうのか?
ビジネスシーンでの服装のカジュアル化が今よりも進んでいけば、もはや「ビジネスシューズ」という言葉は失われていくのかもしれません。
もちろん業界によって差はありますが、すでに「カジュアルビズ」は多くの業界で浸透しているように思います。
革靴にしてもスリップオンタイプや、スニーカーと革靴のハイブリッドタイプの需要が高まっているのは事実です。
従来のビジネスシーン向け革靴をメインに展開しているブランドは、今後の市況の変化に柔軟に対応していけるかが課題だと思います。
今後の革靴は二極化していく
革靴市場の需要拡大は見込めません。
しかし、革靴のニーズが無くなるわけではないです。
アフターコロナでは革靴のニーズは二極化していくのではないかと思います。
・革靴のスニーカー化
ひとつは、前述したように革靴のスニーカー化です。
とりあえず革靴の体をなしていれば良いという人からすれば、スニーカーのように軽くてクッション性のある革靴はニーズがあります。
このタイプの革靴は、最近多くのメーカーが取り組んでいるものでもあります。
芯を無くしたりアンライニングにすることで、非常に柔らかくリラックスして履ける革靴や、スニーカーソールを付けた革靴などがこれにあたります。
軽さと柔らかさを重視した靴は、修理を前提に考えていないものが多いので、革靴を手入れしながら長く使いたいという人には向かないかもしれません。
・趣味性重視の高級本格靴
もうひとつは、趣味性を重視した高級本格靴です。
つまり、革靴が好きだから革靴を履くという人に向けた靴です。
伝統性やステータス性、職人の技巧が詰まった靴は嗜好品としての魅力があります。
このような高級本格靴は今後より充実したものになる可能性があります。
例えば、腕時計の世界にもこのような流れはありました。
60年代後半にSEIKOが生み出したクオーツウォッチの登場により始まった「クオーツショック」により、一度は衰退したスイス時計産業は、嗜好品としての付加価値が高い精密で複雑な機械式ムーブメントウォッチに的を絞ったことで、ラグジュアリーウォッチビジネスを確立し復活を遂げました。
これと同じような形で、趣味性の高い高級本格靴は今後も残っていくのではないでしょうか?
最後に
今回は、アフターコロナの革靴の在り方について考えてみました。
今後はメーカー側がどれだけ宣伝をしても、革靴を履くことに意味を感じない人は革靴から離れていくでしょう。
しかし「革靴」はより嗜好性の高い分野になるので、靴好きに好まれる付加価値の高い靴は求められ続けるのではないでしょうか?
ニーズを上手く掴んだメーカーしか生き残れない厳しい時代がそこまで来ていると感じます。