革靴は履き込んで初めて完成する。

お店に並ぶどんなに美しい革靴も「道具」として見れば未完成です。

新品の革靴は「水に戻す前の春雨」と言ってもいいかもしれない。

Gennojiです。

今回は革靴は履き込んで初めて完成するということについてお話しします。

靴として売られているのに未完成ってどういうこと⁉︎と思われるかもしれません。

そこには「革」という素材の持つ素晴らしい特性をご理解いただく必要があります。

革靴が本領を発揮するのは履き込んでからなのです。

(革靴の道具としての面にフォーカスした話なので、コレクターの方を否定するわけではありません。悪しからず。)

新品の革靴が未完成なワケ

新品の革靴って硬いですよね。

(最初から柔らかく作られた革靴もありますが。)

実際、グッドイヤーウェルテッドの紳士靴のように剛性の高い革靴になると、表革と裏革を合わせて厚さが2.5〜3mm程あります。

そんな厚く硬い革の箱に生身の足を入れるのですから、足当たりの硬さや圧迫感を全く感じないわけがないのです。

この段階の革靴は履き心地がけっして良いとは言えず、靴として完成されているとは言えません。

しかし、この先が「革」の凄いところなのです。

靴に適した「革」の特性

そもそも「革」とは動物皮に「鞣し(なめし)」と呼ばれる加工を施し、コラーゲン繊維に鞣し剤を結合させることで腐食せず強度を高めた素材のこと。

人類は遥か昔から履物に皮革を利用してきたようです。

2008年に国際的な考古学チームがアルメニアの洞窟で紀元前3500年頃(約5500年前)に製造された革靴を発見しました。現時点ではこれが現存する世界最古の革靴と言われています。

これほど長きに渡り、靴に革が利用されてきたのは、革の優れた特性が靴に適しているからにほかなりません。

柔軟性と強度の両立、温度による変質の少なさ、保温性、着用感を左右する吸放湿性など、どの性質も靴にとって重要な役割を果たしています。

そして今回、ピックアップしたいのが革の適度な「塑性」と「弾性」です。

革の「塑性(そせい)」と「弾性」とは?

「塑性」と「弾性」あまり聞き慣れない言葉だと思います。

しかし、これこそ「革靴が足に馴染む」の正体なのです。

「塑性」とはある一定の力を加えて変形させたとき、もとに戻らず変形が残る性質のこと。

「弾性」はその逆で、加えられた変形からもとに戻ろうとする性質のこと。

革は塑性と弾性のバランスが絶妙なんです。

例えば、革靴の製造。

最初は平面の革も靴木型に一定時間癖付けすることで、木型を抜いても靴のシルエットを保ちます。

これは、革の「塑性」を活かして靴型に加工しているわけです。そして一度靴になると適度な「弾性」により簡単には形崩れしません。

そしてここからが本題。

この「塑性」と「弾性」の働きは、革靴が足に馴染むプロセスに大きく関わっています。

革靴が足に馴染むプロセス

先に話した通り、新品の革靴は硬く、履き心地が良いものではありません。

しかし、着用回数が増えていくにつれ靴に変化が起こります。

足に合わせた靴の再成形が始まるのです。

この際重要なのが実は足からの発汗。

革は汗(水分)を吸収することで、一時的に繊維が解れて変形しやすい状態になります。

そして、革の塑性により履き主の足の形に少しづつ変形していきます。一度足形になるとその形状を保ちます。

この変化のことをよく「革が伸びる」と表現しますが、実際には革はそれほど伸びていません。円が引っ張られて楕円になるように足の形に革が沿っていきます。

革靴は汗を吸収し再成形することではじめて完成するのです。

どんな靴でも足に馴染むわけではない

これまで話したように、革靴は履き込むことで足形に再成形され履き心地が向上します。

しかし、どんな靴でも履けば良くなるというわけではありません。

当たり前の話ですが、フィッティング40点の靴が馴染んで100点になるわけではないのです。

だからこそ、最初のフィッティングで出来るだけ高得点の靴を見つけることが大切です。

とくにグッドイヤーウェルテッドの靴は足馴染みによるサイズ変化が大きいので、フィッティングには注意が必要です。

グッドイヤーウェルテッドであれば、足幅や甲周りの圧迫感は革の馴染みにプラスして中底も体重で沈むことで緩和しやすいです。

その為、新品時のフィッティングでは馴染んだ頃のサイズ変化を予測して許容範囲で圧迫感のあるサイズを選ぶ必要があります。

(広い面での圧迫は馴染むことが期待出来ますが、点で当たる圧迫は痛みに繋がりやすく足との相性が良くありません。)

しかし、つま先周りやかかと周りに関しては芯が入っている為あまり変化しません。

馴染むからといって、とにかくきつく合わせれば良いということではないのです。

誤解しやすい革靴のタイトフィッティングについて

最後に

今回は革靴は履き込んで初めて完成するということについてまとめました。

革素材は靴になった時、そのポテンシャルを遺憾なく発揮します。

靴に適する素材として革を超えるものはちょっと思いつけない。

どんなに素晴らしい食材も調理方法を知らなければ美味しく食べることができないように、革靴もその「特性」と「扱い方」の理解を深めることで、さらに世界が広がります。

美味しいものには手間がかかるのです。



あなたの街の靴屋「Life with shoes」の店主。 (@Gennoji_LWS
国内外で靴作りをした元靴職人。
これまで5000人以上の足をみて靴選びのお手伝いをしてきました。
足に合った靴の選び方、印象を良くする靴のお手入れ、靴を長持ちさせる付き合い方をお伝えします。