「優れたクッション性で長時間履いても疲れません。」
「アーチのクッションがあなたの足を優しくサポートします。」
どこかで聞いたような謳い文句。
そのまま鵜呑みにしていいのでしょうか?
Gennojiです。
今回は靴の「クッション性」について掘り下げてみたいと思います。
靴屋で働いていると、靴に足を入れた瞬間に「これはカタい!ダメだ。」と即断してる人をけっこう見かけます。
特に、靴擦れで辛い経験をした人は「とにかく柔らかい靴がいい」という方向に考えがいきがち。
このような反応が多いと、売り場からも「もっと足入れの柔らかな靴を作ってくれ。」とメーカー側に話が飛びます。
それに対して一部のメーカーはどうするか。
よくあるのが、とにかく足を入れた瞬間の柔らかさを演出する為、インソールにスポンジを仕込んだ靴を作ること。
しかし、柔らかなスポンジインソールが本当に足に良いのでしょうか?
そもそも人間の足は優れた構造を持っている
“足は人間工学上、最大の傑作であり、また最高の芸術作品である” ーレオナルド・ダ・ヴィンチ
世紀の天才ダ・ヴィンチもこのような言葉を残しているそうですが、人の足って本当によく出来ているなと思います。
人が二本足で安定して歩行出来るのは、足の優れた構造の賜物です。
着地の衝撃を丸く発達したかかとで受け止め、荷重をアーチ(つちふまず)の沈みで分散する。
重心が前方に移ると、小指の付け根から親指の付け根にローリングしながら蹴り出す。
足の骨と靭帯と筋が複雑に連携することで衝撃吸収と推進力を生み出し、人のスムーズな歩行を実現しています。
人の足がこれほど緻密な構造をしているのは、足から最も離れたところにある重要器官「脳」を衝撃から守るためでもあります。
足で吸収しきれない衝撃は膝や股関節でカバーをしています。裏返して言えば、足が十分に機能しないと膝や腰の負担が増すことになります。(機能低下の代表例が扁平足。)
インソールが柔らかいとどうなるのか?
厚く柔らかなインソールは、身体の負担を軽減してくれそうな気もしますよね?
しかし、そう単純な話ではありません。
砂浜を歩くところをイメージしてみてください。
足元が不安定だと力の伝達がうまくいかず、歩きにくいですよね。
かかと下やインソールに柔らかく厚いスポンジが入っている靴にも、これと同じようなことが言えます。
歩くたびにかかとの位置が変わり、足がバランスを取ろうとして余計なエネルギーを使うので長時間履いていると足が疲れます。
(大き過ぎるサイズの靴を履いている場合も同じこと。)
紳士靴で言うと、半敷(ブランドロゴなどが刻印されている部分)下のスポンジは1〜2mmなら問題ありません。
しかし、それ以上スポンジを厚くすればかかとの固定は悪くなるでしょう。
そこまでのクッション性が本当に必要?
巷にはクッション性を売りにした靴が多くあります。
加齢などで足の衝撃吸収機能が低下した人が靴にクッション性を求めるのは分かります。
しかし、健康な足を持つ人まで過度にクッションを入れた靴が本当に必要でしょうか?
先に書いたとおり、人の足にはそもそも衝撃を吸収する機能があります。舗装された路面の衝撃を吸収するには、実際2㎝程のヒールがあれば十分でしょう。(一見硬そうな革底であってもです。)
クッション性=柔らかいものをイメージする方も多いと思いますが、靴におけるクッションは同時に反発力がなければ歩行動作の妨げになります。
さらに言えば、クッション性も反発力も必要以上に付加すれば身体の負担が増えます。
(陸上長距離界で一世を風靡した厚底シューズは高い反発力と引き換えに身体への負担がかなり大きいそうです。)
日常的に履く靴であれば、足本来の機能を損なわないバランスの靴を選びたいものです。
足を鍛えることも大切
近年、若年層を中心にアーチが低く甲の薄い足が増えています。
現代の生活習慣を思い返してみればそれも肯けること。
幼少期からゲームなど室内遊びが多く、近距離でも車や交通機関で移動。靴は基本クッション性の良いスニーカーを履いている。
「足を使うこと」自体が減っているので、昔と比べて足が発達しないのも仕方のないことでしょう。
若い人の中には革靴のような硬い靴が履けない(締め付ける感覚が耐えられない)という人もいます。
若いうちからそのようでは2、30年後にはどうなってしまうのでしょうか?
私は自分の好きな靴をいつまでも履いていたいので、「足を鍛える」ことを大切にしたいと思います。
優れた靴は確かに姿勢を正してくれますが、足の筋力を保つには「足を使うこと」を忘れてはいけません。
歩くことが大切。
最後に
今回は靴のクッション性について掘り下げて考えるということで、最後は足の健康について感じることを書きました。
一応誤解のないよう言っておくと、スニーカーが足に良くないと言っているわけではありません。(靴の種類に関わらず、良いものもあれば悪いものもある。)
ただし、コンフォート(快適な)なものしか身につけられない状態が「健康」と言えるわけではないでしょう。
靴が身体に及ぼす影響を理解した上で、その都度目的に合った靴を選ぶ。
そして何より、好きな靴をいつまでも履ける身体を維持することが大切ではないでしょうか。